『――本当に?』
そんなとき、夢の中の僕が問いかけてきた。
『君は本当にそれでいいの? 本当にそれで満足なの?』
もう一人の僕は、微笑む。
『僕は知っているよ、君の本当の願いを。僕には聞こえているよ、君の心の叫び声が』
「……っ」
暗い暗いトンネルを抜けた先、そこに広がる荒れ果てた庭。それを囲むように長く続く無限の回廊。
そこには怪物が住むという――それはもう思い出せないほど昔、母上が読んでくれた絵本に出てきた、孤独な怪物。
そこに住む怪物は、寂しそうに僕に微笑む。僕だけに、微笑みかける。
優しく、悲しく、深い愛に満ちた瞳で。
『アーサー、僕は君の傍にいるよ。ずっとずっと傍にいるよ。僕だけは何があっても、君の味方でいるから。――だから、そんな顔をしないで』
夢の中で、怪物は笑う。
『僕が、いるよ』
何度も何度もそう繰り返す。それは甘く、切なく、僕の心を捕えて放さないように――。
『忘れないで、僕がいることを。ずっと君の傍にいる。……約束、するよ』
「――っ」
僕の頬をそっと撫でる、その怪物は――僕の瞳から絶対に目を逸らさなくて……。彼だけは、僕の赤い目を怖がらなくて……。
それが夢だとわかっていても、ただの夢だとわかっていても、僕は何度も、何度でも、彼に会いに行く。
『愛しているよ、アーサー』
僕の望む言葉をくれるのは彼だけ。夢の中の、もう一人の自分だけ――。
『僕が君の力になるよ。君のその力、それは王の力だ。偉大な力。君だけに、扱える』
目の前の自分の赤い右目が、妖しく光り――そして、蠢いた。
『アーサー、僕が力を貸してあげる。僕が君を助けてあげる。君の敵になるものを全て、この僕が壊してあげる。――さぁ、この手を取って』
そうして僕の目の前にゆっくりと掲げられる彼の青白い右手。それは酷く不気味で、まるで死人の手のようだと僕は思った。けれど、不思議と嫌な気はしなかった。
これで楽になれるのだと――ただ、そう思った。
気付いたときには、僕はその手を取っていた。
瞬間、僕の心に広がったのは、形容しがたい高揚感。
僕は彼に手を引かれ回廊を抜け出した。暗く長いトンネルを抜け、僕らはようやく、目覚める。