――あれからもう四年が経とうとしている。
けれど母上は、あれ以来僕と目を合わせようとしない。
それは使用人もまた同じ。朝僕を起こすときも、食事の支度をするときも、勉強を教えるときも、乗馬や剣の訓練をするときでさえ、彼らは決して僕と目を合わせない。誰も、僕の顔を見ない。
だけど、そう、かろうじて父上だけは、僕の目を見て話してくれる。けれど父上は僕よりも母上が大切だから、母上に気を遣って、最近は僕と会ってくれなくなった。
僕の赤い右目。今は色を入れていて一見普通の紫だけど、それを外せば血のように赤いおぞましい色。
どうして僕はこんな目を持って生まれてしまったのだろう。どうして僕には人の気持ちが読めてしまうのだろう。聞きたくもない、知りたくもない声なのに、どうして……。
「どうして僕は……生まれてきてしまったんだろう」
僕が母上を不幸にした。僕のせいで母上は笑わなくなった。僕がいなければ……僕なんか、生まれてこなければ……。
あぁ……性善説を最初に唱えたのはいったい誰だっただろうか。生まれながらにして人は善い心を持っているなどと、いったい誰が言い出したのか。そこにいるだけで吐き気をもよおしそうな場所にいて、どうしてそんなことが……人の愛が信じられるだろうか。信じられるわけがない、誰も、何も、自分自身さえ――。
本当に大嫌いだ。こんな自分が、弱くて、卑屈で、本当に大嫌い。
消えてしまえばいい、こんな自分、消えて無くなってしまえばいい。誰にも必要とされない、誰にも愛されることがない、自分なんて……。
そうして僕は夢に逃げ込む。いつも、一人、ただ……一人で。
そうしなければ、僕は自分でいられなかった。壊れてしまいそうだった。話し相手もいない、そんな毎日に、狂ってしまいそうだった。
媚びを売るためだけに近づいてくる貴族も、上辺だけ取り繕った友人も、僕の目を見なければいいと思って……本当に僕を馬鹿にしている。僕には全部聞こえてるんだ。お前たちの声が。僕を恐れ、ただ利用しようとするその卑しい心の声が。
もう――全部消えてしまえ。全部全部、消えて無くなってしまえ。
この世の全て、僕自身も……闇にのまれて……無くなってしまえばいい。