「お暇でしたら、お茶かコーヒーでも入れましょうか?」
今度は気が効く風を装って、真壁ににこやかに笑いかける。が…

「佐野由亜…いや、由亜その愛想笑いは辞めた方がいい。俺に気遣いは不要だ。
…お前の事を磨けば光る原石だと思って見てたに過ぎない。」

はい⁉︎…何を言ってるんだろうと、由亜は首を傾げ見つめ返してしまう。

なぜが数秒見つめ合って止まる。

「…そろそろ店の様子でも見て来るか。」
先に目を逸らしたのは、真壁の方で…。
勝った…!と心の中で由亜はガッツポーズをする。

立ち上がり、ドア前まで来た真壁が振り返る。

「由亜…お前、もしかして…。」
そう言いかけて、なんでも無いと部屋を出て行ってしまった。

緊張した…。
やはりNo.1ホストと言われるだけある。醸し出すオーラと食い入るような目力、他人を魅了してしまうような、仕草に立ち振る舞い、只者じゃない感が半端なかった。

京ちゃんがハマってしまうだけあるなぁと、由亜は変に感心をしてしまった。

その後駆けつけてくれた税理士が、『ありがとう。助かったよ。』と、両手で握手をされ引き継ぎが始まった。

税理士の言う事には、オーナーの真壁は税金関係に関しては厳しくて、自らチェック出来るほど経理に長けているらしい。給料に関しては前借り制度もある為、少し面倒なところもあるが、後は他の会社と基本同じだと言う事だ。

机に置いてあったメモ帳に、逐一書き込みメモを取る。あっという間に3時間が経ち10時半を越していた。
「お疲れ様でした。今日はこれでお先に失礼します。」
帰りの電車を考えればギリギリの時間だ。
由亜は慌てて身支度を整え、雅美ママに挨拶をして帰ろうとする。

「由亜ちゃん、お疲れ様。
お店の前にいる黒服に送迎車まで連れて行って貰いなさいな。それに乗って駅まで行くといいわ。」

雅美ママはとても親切で、入ったばかりの私にもとても優しかった。

『ありがとうございます。』と挨拶をして有り難く黒服に送って貰う。確かに1人で歩いてたら、直ぐに店引に捕まってしまいそうだ。

それじゃなくても酔っ払いだらけ、あちらこちらで声を荒げて喧嘩していたり…流石に眠らない街は物騒だった。