久々の仕事を終えて22時定時に退社した。

机の上の仕事はまだまだ半分も処理出来ていない。残業するつもりでいたのに、病み上がりなんだから定時で帰れと、翔さんに咎められる。

『送って行くから、近くのコンビニで待て。』
店の入口を出た辺りで、翔さんからメールが入る。

翔さんだって、久しぶりの仕事できっと仕事が溜まっている筈なのに…

『タクシーで帰りますから大丈夫です。』
と、返信するのに、直ぐに

『俺も今夜はこれで上がるから気にするな。』
と返ってきた。

仕方がないので、指示通りコンビニで待つ事にする。

コンビニでパラパラと雑誌をみながら待っていると、

「由亜、見つけた。」
不意に背後から話しかけられて、腕を捕まれる。

ハッとして振り向くと、そこには京ちゃんが不吉な笑顔で立っていた。

一気に血の気が引くのを感じる。

「そんな簡単に、あんたを逃すと思ってた?あんたは逃げられたつもりでしょうが詰めが甘いのよ。
私が翔魔に脅されたくらいで身を引く訳無いでしょ。
ちょっと着いて来て。」

「…京ちゃん…。」
コンビ二から半ば引きづり出されるような感じで、引っ張り出される。

「痛いよ…京ちゃん…。」
コンビニ側のビルの隙間、強引に連れて行かれてやっと腕を振り解く。

「あんたが学生の時、養ってやったのは誰?私がいなかったらあんなんて路頭に迷う人生だった筈よ!
それなのに…翔魔を横取りするなんて、この泥棒猫!!」

そんな風に敵意を向けられてしまうと、自分が加害者のようだとビクついてしまう。

「京ちゃんの…事を思って、今まで頑張ってきたけど…私は何も見えてなかった。
私は京ちゃんの操り人形だった…言われるままに動いて、気付いたら洗脳にも似た状態だったんだと思う。
翔さんに会ってやっと目が覚めたの。私は…私の人生を歩むべきだって、京ちゃんに支配されない…新しい人生を…。」

「で?今度は翔魔に騙されて?支配されて?
同じ事の繰り返しよ。本気で翔魔に愛されてると思ってるの?バカじゃない?翔魔は誰も愛さないし、特別なんて作らないのよ。」

掴まれた腕がぎゅっと燃えるように熱い。

「翔さんは優しい人です。私を保護してくれて、助けてくれて、自分の思いのままに自由に生きるべきだって言ってくれた。」

京ちゃんの狂気じみた笑い声が響く。

「あっちは女を落とすプロよ。あんたを騙す事なんて簡単よ。騙されていい気味!」