2人で夕飯の準備をして、2人で仲良く食べ終える。

そろそろ夜の出勤の時間だと、支度を整え店へと向かった。

2人一緒に出勤するのは、どうしても無理だと翔さんに訴えて、渋々彼は私を先に車から下ろしてくれた。

地下の駐車場からわざわざ1階の入口まで行き、いつも通りのルートで店に入る。

エレベーターにはいつも通り純がいる。

「由亜ちゃん!久しぶり、風邪を拗らせたって聞いたけど、もう大丈夫なの?」

「こんばんは。もうすっかり元気です。ご心配おかけしました。」
ペコリと頭を下げて礼をする。

「今度快気祝いも兼ねて何か美味しい物でも食べに行こうよ。」
純が子犬のように尻尾を振って、そう言って来るから、返事に迷いながら言葉を選ぶ。

「えっと…。」
話し出そうとしたタイミングで、

「由亜はお前みたいに暇じゃない。今後一切誘ってくれるな。」
背後から突然低い声が聞こえて来て、2人で一斉にビクッとする。

「オ、オーナー!お疲れ様です!」
ビシッと仕事の顔になった純が慌てて、90度のお辞儀をする。

「店内でスタッフを誘惑するのは違反じゃなかったか?」
氷のように冷たい目線を投げかけられて、純は真っ青な顔になる。

「いえ!決してそのような事は…。店のみんなと由亜ちゃんの快気祝いをしたいと、話していただけです!」
従順な忠犬になった純を、なんとなく可哀想に思って由亜は、

「オーナー、出勤時間に遅れてしまうのも御法度ですよ。」
と、エレベーターの中に翔を誘導する。

威嚇する翔を何とかエレベーターに乗せて、純とは目配せして別れた。

2人だけのエレベーターの中、
「翔さん…早過ぎです。五分経ったら来て下さいって言ったのに。」
私だって言い分はあると、鋭い目線に負けじと言う。

「由亜が遠回りしてるからだろ?そのまま直通で上ってけばいいものを。」

「そんな事したらお店のみんなにバレちゃいますよ。そしたら翔さんの威厳に関わりますから。」
私も強気になって、翔さんに楯突く。

「あいにく仕事場で口説くのは駄目だけど、社員同士の恋愛は禁止していない。」
ブスッとした態度で、翔さんが腕を組んで応戦の構えだ。

「あれ?私…翔さんにお店で口説かれませんでした?」

「俺は掟は破ってない…俺が作った掟だから、それを自ら破る訳が無いだろ。」

翔さんはそう言って、指定の階に止まったエレベーターをサッと降りて、ズンズンと歩いて行ってしまった。

怒らせてしまっただろうか…と、些か心配になってしまう。