この人は…私をからかって楽しんでる。

朝ご飯を小洒落たレストランで食べながら、由亜は目の前で楽しそうに笑う翔を怪訝な顔で見る。

しかもイケメンの笑顔はタチが悪い。

先程から周りの女性客がチラチラとこちらを見ている気がして、由亜はどうしようとなくソワソワしてしまうのだ。

今は平日の昼近く、遅いブランチぐらいの時間だ。

専門店やスーパーが入る総合施設の店内は、ちょっと早めのランチを食べるサラリーマンや、女子達で賑わっていた。

「翔さん、早く食べて帰りましょ。」
居心地が悪くて由亜は小声で翔に伝える。

「どうした、疲れたのか?熱でも上がった?」
急に翔は心配顔になって、額に手を当てられる。

「だ、大丈夫です。周りの目が気になるので…早く食べてこの店出ましょ。」
由亜の言葉でやっと周囲に目を向けた翔だが、

「平日に、こんな場所でのんびり飯食ってる事に気が引けるのか?
そんな事気にするな。俺なんか夜の仕事を始めてから、いつもこんな感じで肩身が狭い。」

肩身が狭いようには見えないけど…?
夜のお仕事をしてる人はどうも、明るい時間帯は苦手らしい。

「そう言えば、エレベーターボーイの純君も同じような事言ってました。真っ昼間から外に出るのは気が引けるって…。」
そう何気無く話した由亜だったが、目の前の男はそれだけで途端に不機嫌な顔になる。

「由亜から純の話しは聞きたく無い。」
ブスッと不貞腐れてそっぽを向く。
その姿がまるで子供みたいで、フフッと由亜は笑ってしまう。

「由亜は俺のだ、自覚を持て。」
不意にぎゅっと片手を握られるから、由亜は真っ赤になって周囲をキョロキョロしてしまう。

「そんな事で拗ねなくても…。」
由亜は独り言のようにそう呟いて、残っていたサンドイッチをいそいそと食べた。