コンコンコン

ノックの音が部屋中に響き、由亜はビクッと身体を震わせながら、
「はい…。」
と返事をする。

ガチャっとドアが空き、スーっと綺麗な留袖姿の女性が1人入って来た。

「お待たせしました。私、この店のママをしてます雅美です。面接希望の方?」
にこやかな笑みを向けられて、由亜の緊張はMAXだ。

「初めまして。佐野由亜と申します。
本日はお忙しいなか、お時間を頂きありがとうございます。」

由亜は立ち上がり、持って来ていた履歴書を差し出し、深く頭を下げる。

「そう、固くならないで…座って。」
雅美は優しい笑顔を向けて履歴書を受け取り、ゆっくりと目を通してくれる。

そして由亜に向き合い、話し出す。

「ちょっと、手違いがあった事を先に謝りたいんですけど…。」
と、雅美は前置きしながら話しを続ける。

「うちはね、本来なら初心者は受け付けていないの。実は電話に出た子が知らず、受け入れてしまったようで、ごめんなさいね。」

「私では…ダメと、言う事ですか?」
由亜は恐る恐る聞く。

「そうね…普通の会社員なのね。
うちはね。大手会社のお偉い様や政界関係者、官公庁のお偉い方も来るから、粗相は出来ないの。
それに、もし貴方の会社のお偉い方が来たらどうするの?
見つかったら首になっちゃうわよ?」
雅美の懸念は良く分かる。

「私、普段はこんな格好をしていませんし、きっと同僚だって気付かないと思います。フロアがダメでも、裏方でも良いんです。なんだってします。働かせて頂けませんか?」
由亜は必死に訴える。

「そうねー。…ちょっとオーナーに相談してみるわね。」
少し待っててね。と、言って雅美は席を立つ。

これでダメだったらどうしよう…。
ものの10分足らずで私の覚悟が泡と散ってしまう。由亜は意気消沈して定を待つ。