(翔side)

俺は1人愛車に乗り、京香が指定したホテルの部屋へと向かう。

何故、わざわざ個室を取ったのか…?
少しの疑問を持ちながら、それでも人目に触れる話しでも無いと思い直し、彼女が望むまま受け入れた。

店の外で京香に会うのは初めてだ。最後に会ったのは3年以上も前の事…。

『1120号室』
彼女から来たメールに再度目を通し、受付を通って合鍵を渡される。

いつに無く緊張している自分がいる。
その度に由亜の顔が頭に浮かび、自分を奮い立たせて一歩を踏み出す。

最上階の特別室…
もっと安っぽい部屋であったら良かったのにと、俺はドアの前でため息を吐く。

それでも気を取り戻し、呼び鈴を押してネクタイを整える。

ガチャ

と、ドアが開いたかと思うと、腕を掴まれ中へと強引に引っ張られる。

「翔魔!会いたかったぁー。」
京香が挨拶も無しに抱きついて来ようとする。
少し…酔っているような雰囲気を醸し出す。

俺は体制を崩しながらも、寸でのところでそれを交わし、一定の距離を保つように一歩引く。

「ご無沙汰しております。
体調を崩されていると伺いましたが…その後、お加減はいかがですか?」

あくまでも、客とホストだ。
それ以上の境界線を踏み越えられる訳には行かない。しかし、謝罪は受け入れてもらいたい。俺は出来るだけの誠意を持って敬語で話しかける。

「いつぶりかしら?最後に会ったのは3年前?」
妙にテンションの高い京香を前に、少し戸惑いながら俺はペースに巻き込まれないように、身を引き締める。

「そう、ですね。ここで話しもなんですから…ソファに座って話しませんか?」

このままではいつまた抱きついて来るか分からない状況だ。少し冷静になるべきだと、京香を促し部屋の中へと足を運ぶ。

「いつからそんな低姿勢になったの?
翔魔らしくないわよ。どんな客にも媚びないのが貴方の売りとでしょ。」
京香が不敵な笑みを浮かべ、ソファに足を組んで座る。
真っ赤なドレスは胸元が大胆な開き、スカートのスリットは際どいところまで入っている。

魔性の女…
ひとえに例えるならそう表現出来るのだろうが、俺からしてみれば恐怖さえ感じる…。

三年前より痩せて、顔色も青白く体調が良くないのは手に取るよう分かる。

高飛車な感じは以前と変わっていないが、精神を病んでいた事が分かるくらいには細い腕をしていた。

少しの同情と申し訳ない気持ちを込めて、俺はすかさず手土産を渡し、絨毯の上に両膝をついて頭を下げる。

「自分のせいで、貴女を精神的に追い込み自殺未遂までしたと…伺いました。
知らなかったとはいえ、それほどに心を病ませてしまった事。ここで、深くお詫びさせて頂きたいと思います。」

土下座なんて、今まで何があっても絶対しなかった。

だが今、彼女の心が少しでも癒えるのならば、どんなプライドもかなぐり捨てて誠心誠意謝るのみだ。

何より由亜が、この呪縛から解放される為ならなんだってしてみせる。

「…何…してるのよ。頭…上げてよ。翔魔らしく無いじゃない…。」
さすがの京香が声を震わせそう言ってくる。

そっと顔を上げ、おもむろに彼女を伺い見る。

「貴方が…頭なんて下げるのなんて見てられないわ。辞めてよ。別に謝って欲しくて今日呼んだんじゃない。
あの頃だって、貴方を独り占め出来るなんてこれっぽっちも思ってなかった!
ただ、1番の客で居たかったし、誰よりも私のところに来てくれてるって思うだけで気分が良かった。ただそれだけよ…。」