やはり長く一緒に居ると離れ難くなるのは必然で、1分1秒が名残欲しい。繋ぎ止めたい気持ちが増して、なんとなく遠回りをしてアパート前に到着する。

「ありがとうございました。楽しかったです。」
由亜に満面の笑顔を見られて自然と俺も笑みが溢れる。

「これから仕事ですよね…。あまり頑張り過ぎないようにして下さい。」

「そう言う時は頑張ってって言うもんじゃ無いのか?」

「いつも頑張ってる人に頑張っては過剰な応援になってしまうんです。だから、頑張り過ぎずほどほどに。」
ニコッと笑って車を降りてしまう由亜を追いかけ、俺も車を降りてその手を握る。

「えっ…?何、どうしたんですか?」
つい引き止めてしまったが…びっくり顔の由亜を前にして躊躇する。

まだ、俺には理由も無く触れる事も、抱きしめる権利も与えられていない。本物の恋愛はこんなにも苦しくて歯がゆいものなんだと…唇を噛み締め…手を離す。

「ごめんつい…。明日、また仕事場で。」

「はい…お疲れ様、でした。」
由亜も少し立ち止まり、じっと俺を見つめてくるが…。ペコリと可愛く頭を下げて、手を小さく振ってアパートの階段を上がって行く。

玄関で立ち止まりまた手を振って来るから、俺も手を降り返し、『おやすみ』と唇だけを動かして伝える。

部屋のドアがバタンと閉じる時、ズキンと心が痛みを覚える。後何回…この切ない別れを繰り返せば、由亜の心が手に入るのか…。


次の日からは、また普通に職場で顔を合わす仲に戻る。事務室に由亜が出勤するのを待ち構える毎日だ。
どんなに思いを伝えたところで一方通行であるのなら、こんな虚しい事は無いな…。

そんな弱気な気持ちに苛まれながら、俺は辛抱強く彼女の返事を待つばかり。