「由亜の事はいろいろ知っている。
履歴書を隅々まで愛読したからな。誕生日は2月15日、魚座のA型、25歳。特技は変装だろ。あとは…計算は得意だが漢字は苦手。小心者だが負けず嫌い。それに…。」

「も、もう大丈夫です。やめて下さい…恥ずかしい。」
被り気味にそう言って、真っ赤になった顔を両手で隠して、早くこの場から立ち去りたいとまで思ってしまう。

そんな私を横目にハハっと笑って、翔さんは楽しそうだ。

「ちなみに俺は5月5日が誕生日、血液型はO型身長182、体重75、靴のサイズ28。あと、お前と一緒の母子家庭だ。大学を辞めて以来親には会っていないが…。
他に何が知りたい?由亜にだったら何だって話す。」

そう言われても、もう既にお腹一杯だけれども…一つだけちゃんと聞いておきたい事があった。

「私、ずっと不思議に思ってたんですけど…翔さんとどこかで会った事がありますか?
だって、翔さんみたいなカッコよくてなんでも持ってる人が、私をなんて…不釣り合いにも程があると思うんです。」

翔さんは、ハァーとため息を吐きながら、
「…この話しをすると若干引かれるかもと思って、今まで言わなかったんだが…。
6年前ぐらいに由亜に会ってる。」

「えっ!?どこでですか?」

「絶対引くなよ…。」
翔さんはそう念を押して話し出す。

「6年前…駅前のコンビニで由亜が働いていた時…ほぼ毎日買いに行く常連客だったんだ。」

翔さんがポツポツと話し出した話しは、私にとっては忘れ去られていた記憶で…。

思い出すまでに、少し時間がかかったけれど…。
傘の話を聞いた途端に蘇る。

「傘…渡しました。確か…あの時、25番のタバコの…お客さんですか⁉︎」

「お前からしたら、そういう認識なんだ。」
翔さんはフッと寂しそうに笑い話しを続ける。

「あの時の俺にとって、こっちの世界…昼の世界とを繋ぐ唯一の人間がお前だったから、とても尊い存在だったんだ。
だから…急にお前が消えて、俺はタバコを辞めた。
それで…しばらく経ってから気が付いたんだ。俺はあの子が好きだったって…。
名前すら知らない見ず知らずの奴から、思われてたと思ったら…引くよな。」

自虐するように、翔さんが大きくため息を吐く。

「だから、お前が俺の目の前に現れた時…大人気なく運命だって、心が踊った。」

今度こそ私は目を見開き、運転している翔さんを見る。

知らないうちに、彼の人生に影響を与えていたなんて…。

信じられないという思いと、嬉しいと思う気持ちと、申し訳ないという思いがごちゃ混ぜになって、なんと伝えていいのか…言葉を失う。