17歳で母を突然事故で亡くし、天涯孤独になった由亜の面倒を見てくれたのが、5歳歳上の従姉妹だった。

自分に従姉妹がいる事を知ったのは、くしくも母の葬式の日だったのだが…。

その後、高校を卒業を機に、この街の女子短大に受験してなんとか合格した。 

そして従姉妹の導きもあり、大都会で一緒に住む事になる。そこは一人ぼっちになった由亜にとって、唯一の帰る場所になった。

『妹が出来たみたいで嬉しい。遠慮しないで我が家だと思って過ごして欲しい。』
そう満面の笑みで迎え入れてくれた事を、今でも由亜は忘れていない。

従姉妹の名前は佐野京香、30歳。
姉御肌で気さくで明るく、由亜とは全く正反対の性格だ。

派手好きでタバコもお酒も嗜む。学生時代は粋がってていたと、本人自身が誇りのように武勇伝を語っていた。

だから、親には勘当されて今になっても許されず、地元には戻れないのだと言う。

由亜は彼女を京ちゃんと呼び、掃除洗濯、料理、家事の全てを任された。彼女の為に尽くす日々だったが、それはそれで結構上手くいっていた。

そんな京香が急に変わってしまったのは…
婚約までした彼氏に振られ、失意のどん底に落ちた事がきっかけだった。

当時、荒れていく彼女を由亜自身もまだまだ子供で、支えてあげる事が出来ず、彼女は失恋の寂しさを夜の街で癒していった。

日に日に金遣いが荒くなり、結婚資金にと貯めていたお金すらも使い果たし、夜な夜な出かけては朝に帰って来るような、乱れた生活を送り始めた。

いつしか仕事も辞めてしまい、自分の身すら削り出し、キャバ嬢として働き出したかと思えば、そのお金すら推しのホストに貢ぎだした。

由亜が必死で止めてもなお、振り切る様に毎晩飲み明かし、フラフラになって帰って来る京香を、どうやって救い出す事が出来るだろうかと、頭を抱えていた頃に京香が自殺未遂を起こす。

第一発見はもちろん由亜だったから、その衝撃は今でも思い出すだけで、身体の震えが止まらなくなるくらいだ。

風呂場で真っ赤な鮮血の中、横たわる京香を見つけた時、その後どうやって救急車を呼んだかすらも、未だ思い出せないほどのショックを受けた。

なんとか一命を取り留めたが、その日を境に京香は虚な目をして覇気がなくなり、笑う事を忘れてしまった。

鬱病と診断されしばらく入院もした。

そして今やっと京香はなんとか自分を取り戻し、少しずつ元気になりつつある。

それでもたまに気分が落ち込む事がある一進一退の体調だから、ちゃんとした定職に就けず今は由亜の働きが、2人の生計を支えている状況だ。

京香をそんな風にしてしまった元凶、彼女が貢ぎ続けたホストが『colors』と言うクラブのオーナーだという事を、やっと突き止めたのが先週、由亜はその勢いで電話をして面接まで漕ぎ着けたのだ。

絶対、面接に受かってその男に近付き、同じような痛い目に合わせやりたい。

裏切られた者の心の痛みを知って欲しい。出来れば京ちゃんの苦しみを…。
そして、これ以上の被害者が出ないように、自分の罪に気付いて欲しい。

そう、それが叶うならばきっと、そこから京ちゃんも由亜自身も、歩き出す事が出来ると信じている。

それが、由亜にとっての復讐で敵討ちなのだ。