部屋に入り、パタンと玄関先で座り込む。
心臓は未だドキドキと脈打ち、息もしづらいくらいだった。

「おかえり。早かったね…どうしたの⁉︎」
部屋から顔を出した京ちゃんが、驚きと共に私に走り寄って来る。

「…オーナーが…翔魔が……車で、送ってくれて…。…私の事が…好きだって…。」
働かない頭で一生懸命京ちゃんに伝える。

京ちゃんは裸足のまま、玄関のドアをガバッと開けて飛び出す。外廊下から下を見下ろせば、一台の黒光りするスポーツカーが走り出したところだった。

あり得ない…あの翔魔が⁉︎

店のキャストにだって、誰1人自分のプライベートを明かさない男が？

京香はそう思い、玄関に戻り座り込む由亜を見つめる。

「由亜…騙されちゃ駄目よ。それが彼のやり方なのよ。」
京香はそう言って、罪深い嘘を吐く。


「…どう言う事？」
少し冷静なった頭で聞き返す。

「それが翔魔のやり方よ…。好きだと言って本気にさせて、由亜から全て奪い取るのよ。絶対心を開いちゃ駄目よ。」
ぎゅっと両手を握られて、私は心がスンと冷めるのを感じた。

それはそうだ…あの、No.1ホストの座に居座る男が、私ごときを好きだなんて…あり得ない。危うく騙されるところだった…。