(由亜side)

「ありがとうございました。」

私はシートベルトを外して、オーナーにお礼を言って車を降りようとした、そのタイミングで、

「ちょっと待て。」
真壁に不意に手を取られ、驚き動けなくなる。

「…な、何ですか?」
急に近づいた距離に怯え身を縮める。

「少し…自分勝手な話しをしても良いだろうか?」
握られた手が熱くて怖気付く。

「…て、手短にお願いします。」
狭い路地裏に、あまり長く路駐もしていられないと思い、私がそう言うと、

「分かった。手短に言う。」
と、オーナーは宣言する。

なのに…私の手を握ったまま見つめられ、なかなか話し出さないから、

「な、何ですか?」
沈黙に耐えきれなくなって私から聞いてしまう。

「お前が…好きだ。」

…!?!?……はい!?

突然の告白で頭が真っ白になり、時が止まったかのような錯覚に落ち入る。

…何を言ってるの!?…揶揄われてる?

言葉の意味をどうしても理解出来なくて、しばし瞬きを繰り返す。

「お前に回りくどい事を言っても、伝わらないと思ったから単刀直入に言う。
俺の自分勝手な思いを言わせてもらえば、お前を他の男に触れさせなくない。
ホストクラブなんて危ない場所に、2度と出入りして欲しくないし、このぼろアパートで暮らしているのかと思うと、怖くて帰したく無い。

出来れば俺を…由亜の最初で最後の男にして欲しい。
これが俺の本音だ。」
真剣な眼差しは、とても揶揄われているようには思えない。

由亜の心臓がドキンドキンと高鳴る。
頭がうまく働かない。No.1ホストのオーナーが?…何で私!?

「あ、あの…。」
私は残っている全ての意識を総動員して、なんとか言葉を搾り出すのに…。

「今は返事はいらない。
…ただ、お前の事をいつも案じてる男がいる事を、認識しておいて欲しい。」

そう言って、握られていた手が離される。
私は反射的に車からバッと降りて、アパートの階段へと走り出す。

でも、と思って一度足を止め振り返ると、ハンドルに身を預けながら、こちらを見つめるオーナーがいる。

私は慌ててぺこっと頭を下げる。

「明日、絶対休むなよ。」
と、オーナーが窓を開けて言ってくるから、こくんと頷き足早に自室へと急ぐ。