「…それもそうだな。」
真壁はフッと笑って、力を抜いたようにソファに身を預ける。

真壁自身、何を俺は熱くなってるんだ…と自分でも笑えるくらい呆れてしまう。

「悪かった…声を荒げて、怖い思いをさせた…。」
急に謝って来る真壁を、不気味そうな顔で由亜は見つめる。

「お前には…いつだって驚かされる…。」
片手を額に当てて…独り言のように真壁が言う。

いつ…私が驚かしたと言うのだろう?由亜には訳が分からない。

トントントン
とまたノックがして、

「お待たせした。お鞄お持ちしました。」
と、一樹がこそこそと入ってきて、由亜に鞄を渡してささっと去って行く。

由亜はおもむろに財布を鞄から取り出して、
「おいくらですか?」
と真壁に尋ねる。

「お前から金なんか取らない…。」
そう言って由亜の手を取り立ち上がらせ、

「手首痛かったか?…手荒な真似して悪かった。」
と、謝ってくる。

「いえ…大丈夫です。あの…お店で飲み物を飲んだので、その代金は請求して下さい。」

「要らない。慰謝料だと思ってくれればいい。気にするな。」
何に対しての慰謝料なの?…由亜は首を傾げる。
えっ?もしかして…手首⁉︎
真壁に掴まれたところは赤くはなっているけど、別に痛くも痒くも無いのに…。

でも…これ以上歯向かっても、不機嫌になるだけだと、
「ありがとう…ございます。」
と、由亜は素直に受け入れ、頭を下げて財布を鞄に納めた。

「お前は、タクシーで帰れ。」
そんな由亜に、真壁が言うのだが、

「プライベートですから、私の好きなように帰ります。」
由亜はそれに対しては抵抗感があり、真壁の言うことを頑として聞こうとしない。

「じゃあ…俺が送ってく。」
真壁はそう言ったかと思うと、強引に由亜の鞄を取り上げて、1人さっさと部屋を出て行ってしまう。