アーゲートをくぐり抜けると、直ぐに黒服の男達に声をかけられる。

「おねえさーん。この街初めて?見ない顔だね。
良かったらお店紹介するよー。」

これが、よくTVで見る客引きというものね。由亜は頭の片隅でそう思う。

頭はまだ現実味のないふわふわとした感覚で、まるで夢の中の出来事のようだ。だからつい、自分が何故ここに来たのか忘れてしまいそうになる。

そんな自分を奮い立たせるかのように、左右に首を振って真の目的を思い出す。

「colorsってクラブはどこにありますか?」
由亜は緊張気味にそう黒服に聞く。

「はっ!?…colors?あそこは敷居の高いクラブだよ?おねーさんはもしかして、仕事目的?
それなら、うちの系列で働きなよ。待遇良いし、いい子ばっかりで働きやすさはピカイチ。
おねーさん清楚で可愛い系だから、クラブよりキャバ嬢とかの方がウケるかも。」

目の前の男はそう言いながら、近くにいた別の黒服に「あのさぁー」と、話しかけ今度は2人がかりで求人の話をしてくる。

「私、19時から面接の予約が入ってるんです。ホステスになるならcolorsって決めているので。」
前に憚る長身の男達を睨みながらかわし、一歩前へと足を踏み出す。

「あんたみたいな初心な素人が働けるような場所じゃないぜ。悪い事は言わない辞めときなって。」

「簡単に入れるような店じゃないよ。」

後ろから先程の男達が口々にそう声をあげる。

由亜はそれを無視して足早に立ち去った。

何を隠そう中高女子校で、おまけに女子短大だったから、この歳になっても未だ男性に免疫が無い。

それに臆病な性格も相まって、今まで彼氏が欲しいとか、誰々がカッコいいとか、推しすらもいた事のない、側から見たら寂しい人生だったのだ。

それは母子家庭で育ったせいなのか、それとも生まれ持っての怖がりのせいなのか…。
男性を怖いと無意識に壁を作ってしまう自分がいる。

結局のところ、この街には1番不似合いな人間なのだ。

そんな事ぐらい由亜自身、よく分かっている。

住む世界が違うとか、不向きだとか、ましてや男性経験がないだとか…

全てを取り払って尚、強い憎しみを抱えここまで来たのだ。

世が世なら敵討ちと言っても過言じゃない。