「なぁ、由亜ちゃん。俺、今日金欠なんだよねー、ソープ行きたいから前借り出来ないかなぁ。」

さっきから、事務室に入り浸り由亜にたかっているのは、真那斗(まなと)という新人の黒服で、由亜の後から入って来た人懐っこい少年のような子だ。

話を聞けば、25歳で病弱な母と二人暮らし。家計を助ける為にここで黒服として働き始めたと言う。
ちょっとヤンチャな風貌と中性的な顔立ちが、男性が苦手な由亜でも、平気で接していられる数少ない人間になった。

「真那斗君…そんな事言ってお母さんの医療費かなんかで使うんじゃないの?
正当な理由があるならその方が前借り出しやすいから、ちゃんと正直に書いて。」
由亜は姉のような視線で真那斗を見やる。

そこにバタンと大きな音を立てて、オーナーの真壁がドアを開けて入って来る。
見るからに不機嫌そうだ…。

真那斗はびくつきバッと椅子から立ち上がり、

「お、お疲れ様です。」
と、頭を深く下げる。

「お前…何こんな所で油売ってんだ?早く仕事に戻れ。」
真壁に睨まれて、まるで蛇に睨まれる蛙のようだ。少し真那斗に同情した由亜は、

「お給料の前借りに来られたんです。すいませんが、少し申請書を書くお時間をあげて頂けますか?」
精神誠意、丁寧な言葉で真壁に伝える。

それに違和感を感じたのか、真壁は怪訝な目を由亜にチラリと向けて、真那斗に容赦無く凄む。

「サッサと書け。1分足りとも遅れたら、給料から差し引くからな。」
真那斗は「はいっ!!」と、元気よく返事をして必死でペンを動かし始める。

そんな真那斗の姿に同情しながら、由亜は真壁に冷たい目をむける。
無駄にオーラが強いのだから、少しぐらい新人に優しく接してあげたっていいのに、と由亜は思う。

そんな由亜を、なんだと言う顔で真壁は睨み返して来る。

本当…目力強すぎ…と思いながらサッと目をそらし、仕事を再開させる。

「お願いします。」
と、真那斗は頭を下げて足早に事務所を去って行った。残されたのは由亜と真壁で…どことなく話しづらい空気が多漂う。