その日から、真壁は1日一回は由亜を揶揄いに来るようになる。

何故なのか、人を虐めるのが好きなのか、理由は分からないけれど、由亜にとってはいい迷惑だ。
彼が来ると心が忙しく踊るし、ワザと触れて来て、その度顔を赤らめる由亜を揶揄っては笑う。

反応が初心な素人だからなのか、何が楽しいのかさっぱり分からない。
ただ、その屈託ない笑い顔を向けられると、もしかして懐に入れたのかと、由亜の頭を掠める復讐の文字…。

信頼を勝ち得たのならば今こそ復讐の時なのだ。

彼は憎き敵なのだから…

本来の目的を思い出し、由亜は身震いする。

「どうした?寒いのか?」
目敏く気付いた真壁が、スッと立ち上がりエアコンのリモコンに手を伸ばすから、慌てて由亜はそれを止めるため、

「だ、大丈夫です。ただの武者震いですから。」
と言うと、

「何だよ、ただの武者震いって…」
とまた、真壁がハハハッと良く分からないツボで笑い出す。

「オーナーの笑いのツボがよく分かりません…。」
そう言って訴えれば、

「ツボって…。」
とまた、笑い出す。

「大丈夫なんですか?
いつもクールでカッコよく決めてる人が、そんな無防備に笑って…知りませんよ。キャストの皆さんに見られたら、たちまち威厳がガタ落ちですから。」
そう咎めるのに、また、お腹を抱えて笑い出す。

「お前が笑わせるせいだ。」
しばらく笑い続けた真壁はそう言って、やっと席を立つ。

「まぁ、お前が俺をそう評価していた事に対しては、嬉しく思う。」
そう、よく分からないコメントを残して去って行った。その背中を見つめて、そろそろ潮時なのかもと由亜は頭をもたげた。

今日こそは…そう思いながらも、それから3ヶ月働き続ける事になる。