再び訪れた静寂な時間。


私は自分の腕を抱えながら、紺野さんの顔を恐る恐る覗く。

もしかしたら、また発作が起きてしまうのではないか。

そんな不安を抱きながら顔色を伺うと、意外にも、紺野さんの表情が少しだけ和らいだ。


「そうだよね。……うん、そう。分かってた。だって佑樹は、いつも山田さんの事見てたから」

そして、予想に反して穏やかな口調でそう答えると、ゆう君の方に視線を戻し、やんわりと微笑む。

彼女の返答に意表をつかれたのか。

ゆう君は驚いたように目を大きく見開き、そんな彼の反応に紺野さんはくすくすと笑い始めた。


「気付いてないとでも思った?ずっと前から佑樹は山田さんを見かける度に、自然と目で追ってるよ」

しかも、彼女のぶっちゃけた話に、今度は私まで驚きを隠せなかった。


まさか、ゆう君も私と同じことをしていたなんて。

いつも遠くから見ているのは私だけかと思っていたのに、お互い目で追っていたとは。

それを紺野さんに見透かされている状況に、何だか恥ずかしさが急激に込み上がってきて、顔が段々と熱くなってくる。


「それに、私と初めて出会った時も、佑樹は楽しそうにもう一人の幼馴染の話をよくしてたものね。本当はその頃から薄々感づいてたの」

それから、更なる衝撃的事実を聞かされた私は、暫く開いた口が塞がらなかった。


「私が佑樹を追いかけてきた時には何故かその子がいて。しかも、佑樹の気持ちは完全にその子に向いていたから。だから正直言うと、私が佑樹に好きって言ってたのは、ただの悪あがきなの」

すると、段々と声が震えてきた彼女の目から、一筋の涙が零れ落ちた。

それが引き金となり、次から次へと大粒の涙が溢れ、紺野さんは両手で顔を抑えた。

「分かってるのに、やっぱり佑樹を離したくなくて、昔のようにずっと側にいて欲しくて。だから、あの時発作が起きて佑樹を無理やり繋ぎ止めてしまった。……だから、ごめんなさい。私の我儘で佑樹を縛って、苦しめて。本当にごめんなさい」

肩を震わせながら、嗚咽混じりに胸の内を明かす紺野さん。

それを見ているのがとても辛くて、苦しくて。

気持ちが痛い程分かるが故に、私まで泣きそうになるのを、なんとか耐えた。