彼のために用意したお礼の品とは。
それは、昔母親が作ってくれた、大きめのチョコチップクッキー。
基本料理は苦手だけど、このレシピはとても簡単らしく、ゆう君がうちに来る度におやつとしてよく出されていた。
それを彼は好んで食べてくれて。
しかも、あの頃と変わらない反応に、私は軽い感動を覚え、胸がいっぱいになる。
「レシピも当時のままだから、多分味は一緒だと思う」
分量もきちんと計り、焼き加減もばっちりだったので、自信を持ってそう答えると、ゆう君の表情は更に明るくなった。
「ありがとう、マジで嬉しい」
その言葉だけで、これまでのことが全て洗い流されていくようで。
久しぶりに見た彼の満面の笑みに、私もつられて笑顔が溢れる。
「それじゃあ、私行くね」
とりあえず、目的は達成出来たので、私は早々にこの場を離れようと立ち上がった時だ。
突然ゆう君に腕を掴まれ、何事かと振り返った矢先。
「お前、その首にあるのって……」
意表を突く彼の指摘にハッと気付き、私は慌てて首元を手で隠した。
「あ、あの……えっと……これは……」
会話に集中していたせいで、すっかり油断していた。
あれから三日が経ち、薄いキスマークは消えてきたけど、くっきりと色濃く残っていたものは、未だに存在を主張している。
これまで誰にも気付かれないよう隠し通していたのに、まさか、ここでゆう君に見られてしまうとは。