逸る気持ちを抑えて、私は屋上へと続く階段を登る。


とりあえず、このギスギスした関係を修復したい。

こじれる前の私達に戻りたい。

今の私に出来ることは、それぐらいしかないから、先週の事には触れず、ノートを届けてくれたお礼だけをしようと。

この土日の間に出した結論を実行するため、私は“ある物”を用意した。


単に問題を先延ばしにしているだけなのかもしれないけど、前に進むためには時にはそれも必要な気がして。

こうして自分を奮い立たせ、私はゆう君と笑顔で話せるように頭の中でシュミレーションをする。




そして、辿り着いた屋上の入り口前。


私は何度か深呼吸をして、高鳴る鼓動を落ち着かせる。


大丈夫。

きっと上手く話せる。


そう自分に言い聞かせ、私は屋上の扉を勢いよく開けた。

その瞬間、照り返す日差しに思わず目が眩む。

やはり、日に日に暑さが増すこの時期に、外へ出ようと思う人はいないのか。

辺りを見渡した限りだと人の気配はなく、一先ずゆう君を探す為、日陰となっている場所へと向かった。


すると、案の定。
貯水タンクの陰から長い足が伸びているのを視界に捉え、私はもう一度深呼吸をして、気合を入れるために小さく拳を握る。


「ゆう君」

そして、自分の中でとびきり明るい笑顔をつくり、貯水タンクから顔を覗かせた。


「加代!?なんでここに!?」

不意打ちの登場に、壁にもたれかかっていたゆう君は、かなり驚愕した顔で私を見上げる。

「さっき教室に行ったら、ゆう君がここにいる事を紺野さんに教えて貰ったんだ」

そう言うと、私は何気なくゆう君の隣に座り、後ろに隠していた“あるもの”を彼の前に差し出した。

「この前はノートを届けてくれてありがとう。あと、お礼にクッキー作ったの。良かったら食べて」

果たして受け取ってくれるのか。
若干の不安を抱きながらも、なるべく自然体を心掛けて、私は青い紙袋を彼に手渡した。


「あ、ああ。さんきゅ」

ゆう君は若干戸惑いながらも快く受け取り、紙袋の中身をちらりと覗く。

「これ、もしかして、あの頃よく食べてたやつか?」

そして、中身を見た瞬間、ゆう君の表情は一気に晴れ、目を輝かせながらこちらに視線を戻した。