「待って!俊君っ!」

そのまま彼の背中に抱き付いた瞬間。
不意を突かれた俊君は、驚愕の眼差しをこちらへと向ける。

「ごめんなさい。私だって俊君の事引っ掻き回して、傷付けて、酷い事ばっかりで……本当にごめんなさい」

けど、構わず私は俊君の背中を更に強く抱き締め、胸の内を思いっきり叫んだ。
 

締め付けられる苦しさに、涙が止まらない。

俊君だって、私に沢山の力をくれた掛替えのない人なのに。

ぶっきらぼうだけど、いつも明るく笑って、前を向く強さを見せてくれて、私を守ろうとしてくれて。

だから、そんな彼を苦しめたくないのに。


「気持ちには応えられないけど、 私にとって俊君も凄く大切なの。だから、このままなんて嫌。傷付けたまま終わらせるなんて、絶対に嫌っ!」

傷を負わせた張本人が言えたことじゃないのは十分理解している。

けど、本心は分かって欲しくて、私は頭に浮かんだ言葉をそのまま口にした。
 

こんなのは、ただ身勝手なだけなのかもしれないし、本当に俊君のためになっているのか分からない。

でも、それでいい。

この気持ちが伝われば、もうなんでもいい。


すると、不意に腕を引っ張られ、バランスを崩した私は軽い悲鳴と共によろめくと、そのまま俊君の厚い胸板に受け止められた。

「止めろ。お前が俺のせいで泣いたら本末転倒だろ?」

そして、俊君は包み込むように抱き締めると、私の頭をそっと撫でる。

「俺は分かっててお前を好きになったんだ。だから、もう泣くなよ。加代の気持ちが聞ければ、それで充分だから」

その言葉はとても穏やかで、温かくて、愛があって。

全てを受け止めようとする俊君の優しさが余計心に染みて、意思に反して暫く涙を止めることが出来なかった。