その時、突然肩を掴まれると、勢い良く体を反転させられ、思わず軽い悲鳴をあげてしまった。

「しゅ、俊君!?」

何故急にこんなことをするのか、状況が全く理解出来ず唖然としていると、今度は両手首を掴まれてしまい、身動きがとれなくなってしまう。

「俺は、もうお前が苦しむところなんて見たくねえし、これ以上お前を傷付けさせたくないんだ」

そう訴えてくる俊君の表情は、とても苦しそうで。

真っ直ぐ向けられた熱のこもった眼差しが、思考を奪ってくる。

「だから、あいつのこと考えられないようにしてやる」

すると、不意にポツリと呟いた途端。

俊君は私の首に唇をあて、ぬるりと舌を這わせてきた。


「……やっ」

その瞬間、今まで味わったことのない感覚が走り、肩が跳ね上がる。

慌てて彼を押し除けようとするも、何度も唇が首に吸い付いてきて、手に力が入らない。

「……あ、やめっ……俊君……」

彼の唇が動く度に全身がぞくりと震え、意図せずこれまでに出したことのない甘い声が外に漏れ出し、彼の言う通り、次第に頭が真っ白になり始めていく。



もう、ダメ。

このままじゃ……。


「嫌あっ!」


危うく彼に取り込まれそうになる手前。

私はそれを全力で拒む為に、力一杯叫んだ。


その途端、ピタリと俊君の動きが止まる。

そして、拘束していた手を緩め、あっさり私から離れると、その場で立ち上がった。

「分かった。それがお前の答えなんだな」

それから、少し低めの声で呟くと、憂げな目で私を見下ろしてくる。

その瞳は揺れていて、今まで見たことがない程弱々しく。

そんな彼の表情を目にした途端、多大な罪悪感が押し寄せてきて、まるで誰かに心臓を鷲掴みにされたような痛みが襲ってきた。


「悪い。頭冷やしてくる」

そう言い残して、俊君は踵を返し扉へと向かう。


その後ろ姿が切なくて、苦しくて。

胸が張り裂けそうな想いに、気付けばその場から勢い良く駆け出していた。