「相原!」

すると、会場へと向かう途中、突然背後から男子の声が響き、私達はその場で立ち止まった。

振り向くと、姉妹校の制服を着た男子生徒が、手を振りながらこちらに駆け寄ってくる。


「匠君!久しぶりだねっ!」

そう言うと、相原さんは今日一番の笑顔を浮かべながら、男子生徒に手を振り返した。

「今回は相原も参加してたんだ。ちょっと驚いたよ」

匠君と呼ばれた人は、小柄な相原さんに目線を合わせて、柔らかく微笑んだ。

「匠君はやっぱり今年も選ばれたんだね。本当に頭良いいよね」

男子生徒と視線が合った相原さんは、若干頬を赤らめながら、嬉しそうに笑う。


「ところで、その後の子は相原の友達?」

そんな二人のやり取りを微笑ましく眺めていると、話の矛先がこちらに向けられ、一気に緊張感が増した私は、背筋をピンと伸ばす。

「あ、あの山田加代です。よ、よろしくお願いします」

相変わらず初対面の人の前では辿々しくなる私。

「俺、渡辺匠です。よろしくね」

しかし、向こうは特に気にすることもなく、穏やかな笑顔で自己紹介をしてくれた。


渡辺君も、相原さんのようによく笑う印象。

背もそこそこ高く、細い垂れ目がとても優しそうな雰囲気を醸し出していて、私は徐々に緊張感が和らいできた。

「私と匠君は同じ吹奏楽部で、よく大会とか合同練習で顔を合わせるんだ。匠君は見た目通りすっごく優しくて、演奏も上手いし、頭がいいんだよ」

そんな彼のことを自慢気に話す相原さん。

「人前で褒めすぎだよ。相原だってそうじゃん」

その隣では、ほんのりと頬を染めながら、照れ笑いを見せる渡辺君。


このやり取りだけで分かる、二人の関係性。

側から見てもお互い好意があることがよく伝わってきて、心から羨ましいと思ってしまう。