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時刻は、夕暮れ時。


私は少しの気晴らしに、大好きなシリーズの本を読み返していた。

このひと時が、とても落ち着く。

本を読めば、今の状況から離れる事ができるから。

ただ現実に目を背けているだけなのかもしれないけど、また体調を崩すわけにもいかないので、暫く余計なことは考えないようにしようと。

そう思い、ページをめくった時だった。




「加代、起きてるか?起きてるなら、入るぞ」

ドアをノックする音と同時に聞こえてきた俊君の声。

不意を突かれた私は反射的に体が飛び跳ね、思わず読んでいた本を閉じる。

まだ気持ちの整理が全然ついていないので、一瞬寝たふりでもしようかと、そんな考えが脳裏をよぎった。

けど、向こうから来てくれたなら、ここはしっかり向き合わなければいけない気がして、私は覚悟を決めて小さく深呼吸する。


「……ど、どうぞ……」

そして、激しく暴れ回る心臓を抑えながら、私は恐る恐る返事をした。


少し間を置いて、部屋に入ってきた俊君。

丁度、学校から帰ってきたばかりなのか。
学ラン姿のまま俊君はこちらに近寄り、ベッドに腰掛けた。


「体調、大丈夫か?」

俊君は心配そうに私の顔を覗いてくるけど、私は目を合わすことが出来ず、つい視線を逸らしてしまい、無言で頷く。 

あれから俊君とはまともに会話をしていないし、こうして二人っきりになるのも始めて。

なので、暫く続くこの沈黙が、非常に重い。

とりあえず、何か話さなければと、口を開こうとした矢先。
突然俊君は重いため息をはき、思わず肩がびくりと反応する。

「あの時は、本当に悪かった。つい、衝動的になって、抑えられなくて……」

それから、視線を足元に落とし、歯切れ悪く謝る俊君に、なんて返答すればいいのやら。

なかなか言葉が見つからず、言い淀んでいると、俊君はそんな私に構わず、今度は力強い眼差しをこちらに向けてきた。