「……海斗さん」

「なに?」

私の呼び掛けに優しく答える海斗さん。

「フランスに行っても、私の事忘れないでくださいね。私、いつまでも海斗さんのこと、本当のお兄ちゃんみたいに想ってますから」

そして、思い掛けない言葉に目を丸くする。

「知ってたの?」

驚愕する海斗さんの問いかけに、私は無言で頷いた。

「この前、綾さんに会って教えてもらったんです。だから、本当はその時お礼を言いたかった。私に変えるきっかけをくれて、ありがとうございます……って」

熱に浮かされながらも、私は真っ直ぐと海斗さんを見つめる。

「海斗さんに安心してもらうように、ちゃんと言いたかったんです。……でも、結局また迷惑かけちゃって……。ごめんなさい。私、やっぱりまだ弱いままです。だから、これからもずっと海斗さんを頼ってしまいます」


本当は、こんな事言うつもりじゃなかった。

海斗さんの夢を、ただ応援したかっただけなのに。

私は、なんて自己中なんだろう。

 
そんな自分の不甲斐なさを改めて痛感し、自嘲気味に笑ってみせる。

すると、海斗さんは私の頬に手を添えて、そっと口付けを反対側の頬に落とした。

突然のことに目を見開くと、視界いっぱいには海斗さんの綺麗な顔が映り、ほてった体は、更に火が出そうな程熱を帯び始めていく。


そんな私を海斗さんは愛おしそうな目で眺めながら、頬を優しく撫でてくれた。


「忘れるわけないでしょ。君は、僕にまた誰かを守る勇気を与えてくれたんだから……」

そう言葉を詰まらせる海斗さんの瞳が、心なしか、少したげ潤んでいるような気がする。

「だから、これからも頼って欲しい。加代ちゃんは、いつまでも僕の掛け替えのない存在だよ」

そして、力強く断言してくれる彼の想いが、じんわりと熱く胸に響いてきて。

凄く幸せで、温かい気持ちがいっぱいあふれ出して。

暫くこの感覚に浸り続けていたいと切に願った。