……そう。

なによりも一番信じられないのは、あの時彼を拒まなかった自分自身。

これまで、ゆう君のために必死でもがいてきたのに。

告白までするって宣言したのに。


心の何処かで、私は俊君にキスされることを受け入れようとしていた。


ずっと紺野さんに俊君との関係を否定し続けていたはずが、まさか知らず知らずのうちに私の中で、こんなにも彼の存在が根付いていたとは。


「私は一体何なんでしょう。これじゃあ、紺野さんにゆう君のこと胸張って好きだなんて言う資格ないです」

もう自分がどうしたいのか、わからない。

ようやく固めた決意を、こうも呆気なく自分で崩してしまうなんて。

「加代ちゃんは真面目に考え過ぎかな。そんなに責める必要はないと思うよ?」

すると、海斗さんは不意に私の頭に手を置いて、いつもの温かい眼差しを向けてきた。

「誰かを好きになることに正しいも悪いもないよ。だから、あまり決めつけないで、純粋に自分の気持ちと向き合ってみたら?」

そして、頭を数回撫でてくれると、優しく語りかけるように私を諭していく。


やっぱり、海斗さんの言葉には魔力でも宿っているのだろうか。

それとも単に私が単純なだけなのか。

いずれにせよ、海斗さんにそう言われると、荒れた波が徐々に沈静化して、段々と冷静さを取り戻していく。

「とりあえず、焦ることはないんだから、加代ちゃんのペースでゆっくり考えてみてね」

それから、ゆったりとした口調で言い聞かされた私は、素直に首を縦に降ったのだった。