その時、突然玄関の扉が開く音が響き、私達は反射的に顔を離した。


「……悪い」
 
それから、我に返った俊君は、そのまま私を残して逃げるように階段を駆け下りていってしまった。

俊君の熱から解放された私は、放心状態のまま力無くその場に座り込む。


未だ唇に残る俊君の熱い吐息と、一向に引くことのない体の熱。

頭が真っ白になり、震える自分の両肩を抱いて縮こまった。


今間違いなく、俊君は私にキスをしようとしていた。

同時に、分かってしまった彼の気持ちをどう受け止めればいいのか分からず、暫く呆然としながら一点を見つめる。

「加代ちゃん?」


すると、階段下で不思議そうに私を見上げる海斗さんの姿を捉えた瞬間。

緊張の糸が一気に解れ、目に涙が浮かび上がる。

「か、海斗さん……」

それから、今にも泣き出しそうな表情に、只事ではないと感じ取ったのか。

海斗さんは慌てて私の元へ駆け寄り、背中に手を置いてくれた。

「さっき俊とすれ違ったけど……もしかして、何かあった?」

そして、心配そうに顔を覗き込まれた途端。 

堪えきれず涙がぽろぽろと零れ落ち、私は無言で首を横に振る。

「とにかく、ここじゃなんだから、一先ず部屋に行こうか」

そう言うと、海斗さんは私の手をそっと握ると、優しく肩を抱いてくれて、そのまま自室へと向かった。