それなのに。

鞄からけたたましくスマホが鳴り始め、私は危うく軽い悲鳴をあげそうになった。


何というタイミングだろう。

あと少しでやり過ごせそうだったのに。


だけど、出ない訳にもいかない。

きっと、この電話は海斗さんで間違いないだろうから。


私は深い溜息を一つ吐くと、全てを諦め、鞄からスマホをとりだし通話ボタンを押す。


「も、もしもし、海斗さん?……はい。分かりました。今裏門前に居ますから。あっ、恵梨香も一緒ですので」

そして、口元に手をあてながら、小声で応対し終わると、スマホを鞄にしまった。

その様子を一部終始恵梨香はとても怪訝な目で眺めていて、私は苦笑いをしていると、横から物凄い視線を感じた。

恐る恐る振り向けば、同じように訝しげな目をこちらに向けているゆう君と視線がかち合う。


バレた。

完全に。


努力も虚しく、呆気なく見つかってしまったことに、堪忍して私は顔を出した。


「き、今日は、よく会うね」

気まずさのあまり、視線を逸らして、とりあえず頭に浮かんだ当たり障りのない言葉をかける。


「そうだな」

ゆう君も、にこりともせず、視線を明後日の方向に向けて、冷めたような口調でそう答える。



「ちょっと、なにこの重たい空気は」

そんな私達の間に立たされ、不服そうな表情で交互に私達を見る恵梨香。

事情を知らないのに巻き込んでしまったのは本当に申し訳ないと思うけど、兎に角今はさっさとこの場をやり過ごしたくて。

私は意固地になって、口を固く結ぶ。