「あんたには悪いけど、あたしは、まだあの場では佑樹の気持ち、聞きたくなかったから……」

すると、急に憂げな表情で、ぽつりと呟いた彼女の話がよく理解出来ず。私の頭の中は疑問符で溢れ返った。

「でも、ゆう君は紺野さんのこと、大切だって言ってたじゃないですか?」

あれだけ真っ直ぐな目で言われれば、私はそれでもう十分だと思うけど。

それなのに、何故そんなにも怯えた目をしているのだろう。



「加代ーーっ!」


その時、遠くの方から恵梨香の叫び声が聞こえ、何事かと後ろを振り返った直後。

走ってきた勢いのまま強烈なタックルを全身に受けた私は、反動で体がよろめく。

「ちょっと、大丈夫っ!?なんか、加代が岡田ファンに拉致られたのを後輩が見たって言ってたんだけど!?」

そして、倒れる一歩手前で、ユニフォーム姿の恵梨香に両肩をしっかりと抑えられ、なんとか転倒は免れた。

「う、うん。大丈夫だよ。紺野さんが助けてくれたから」

とりあえず、興奮状態の恵梨香をなだめながら、苦笑いを浮かべて紺野さんの方に視線を向ける。

「え?そうなの?」

すると、意表をつかれた恵梨香は、唖然とした表情で同じく彼女の方に視線を向けた。

「なんか騒がしいのが来たから、あたし戻るわ。それじゃあね」

そう言うと、紺野さんは面倒くさそうに深い溜息を一つはき、踵を返して、さっさとこの場から立ち去ってしまった。