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「なんか、疲れた……」


ようやく図書室へと辿り着いた私は、これまでの疲労が一気に押し寄せて来て、部屋に入った途端、思わず溜息混じりの独り言を呟いてしまった。

紺野さんのお陰で、岡田ファンから何とか逃れたけど、いつまた言い掛かりをつけられることやら。

それに、彼女の言ったことが未だに引っ掛かり、気になって仕方がない。


とりあえず、今は色々考えても仕方がないので、私は一旦頭を切り替え、作業に移るため奥へと進む。

放課後とあってか、図書室の中は閑散としていて、
数人の生徒がいるくらい。

手始めに課題作りの資料集めとして、社会科コーナーへと足を運び、羅列されている本のタイトルに目を通す。

その中で、棚の六段目に良さそうな本を見つけ、それを取るため手を伸ばした。

頑張れば取れそうな気がするけど、思うようになかなか手が届かず。

かと言ってハシゴを取りに行くのも面倒くさいので、私はつま先立ちをして、腕を限界まで伸ばす。

そして、指先が本の背表紙に触れた瞬間。

頭上から突然誰かの長い腕が伸びてきて、取ろうとしていた本をひょいと引き抜き、私の前に差し出してくれた。


「ありがとうございました」

思わぬ手助けに、お礼を言おうと振り向いた途端。ある人物が視界に入り、そこではっと息を呑む。

目の前には私を見下ろすゆう君が立っていて、意表を突かれた私は石像のようにその場で固まってしまった。

「ゆ、ゆう君?なんでここに?部活は?」

それから、はたと我に返ると、動揺する心を何とか悟られないように、ぎこちなく笑ってみせる。

「日直だったから色々遅くなった。ついでに本も返そうと思ってたし」

そう言うと、ゆう君は反対側の棚へと向き直し、手に持っていた本を元の位置に戻した。