ようやく修羅場から解放された私は緊張の糸がほぐれ胸をなで下ろす。

しかし、紺野さんと二人っきりになってしまった状況は、あまりいいとは言えなかった。

とにかく、気まずい。

あれから、ゆう君ともまともに顔を合わせられていないというのに、紺野さんには尚更会いたくなかった。

助けてくれるたのは凄く有り難かったけど、兎に角、今は顔を見たくない。


「……あ、あの。ありがとうごさいました」

とりあえず、お礼だけはしっかりしようと、頭を下げる。

すると、紺野さんは真顔のまま、こちらをじっと見据えてきた。

ただ、その表情からは敵意があまり感じられず。
心なしか刺々しい雰囲気もなくなっているような気がした。

「この間は悪かったわね」

そして、思いもよらない言葉に、私は一瞬自分の耳を疑う。

「倒れた時の事。一応、あんたにも謝ろうと思って」

そう言うと、紺野さんは決まりが悪そうに視線を外した。

まさか、私の事を気にしていたとは。

全く想像もしていなかった事態に、私は返す言葉が直ぐに思い浮かばず、暫しの間口をつぐんでしまった。

「……いえ、気にしないでください。それよりも、体はもう大丈夫ですか?」

それから、ようやく頭が回り始めた頃、先ずは体調のことに触れてみようと、恐る恐る尋ねた。

「いつもの過呼吸だから、全然平気。佑樹から全部聞いたでしょ」


……え?

何やら、さも当然のように話しているけど、あの時、紺野さんは寝ていたのでは……。


「もしかして、ずっと起きてたんですか?」

「じゃなきゃ、あんなタイミングよく声かけないわよ」

そして、これまた当たり前のような顔で言われてしまい、何だか腑に落ちない。