「……海斗さん、ごめんなさい」

そう思うと、何だか戒められたような気がして、いたたまれなくなった私は素直に頭を下げる。

すると、海斗さんは何も言わず、優しく頭を撫でてくれた。

こうして、私はまた癒されていく。

これで何度目だろう。 

海斗さんと居ると、どうも弱い自分がだだ漏れてしまう。

「私って、海斗さんの前で泣いてばかりですよね」

段々と冷静さを取り戻してきた私は、改めて自分の行動を振り返ると、なんだか情けなくなってくる。

日頃から忙しい海斗さんには、なるべく迷惑なんて掛けたくないのに。なんで、こうも甘えてばかりなんだろう。

「僕としては有難いんだけど」

悶々としている中、予想外の返答に私はきょとんとした目で海斗さんを見返す。

「だって、それだけ僕には素直な加代ちゃんを見せてくれてるんでしょ?それってちょっとした優越感に浸れるんだよね」

「ゆ、優越感ですか?」

得意げな表情を見せる海斗さんの言うことが、未だによく分からず。

頭上に無数のクエスチョンマークを浮かび上がらせていると、そんな私を見て海斗さんは小さく笑った。

「凄く懐かしいんだ、この気持ち。兄の特権ってやつかな?だから、もっと僕に甘えてよ。ありのままの君をもっと見せて欲しい」

そして、慈悲に満ちたその瞳には沢山の愛情が籠っていて。

その温もりは私にとって中和剤となり、気付けば黒い感情は分解され、心地良さへと変わっていく。

だから、唯香さんには申し訳ないけど、今だけは私のお兄ちゃんとして海斗さんを独占させて欲しいと。

爽やかな優しい風に乗せて、心の底から切にそう願ったのだった。