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「……スーツ、汚しちゃってごめんなさい」

ようやく気持ちが落ち着き、海斗さんから離れると、見事に涙でぐちょぐちょになったスーツの襟を見て、私はバツが悪そうに下を向く。

「そんなの気にしないでよ。それより、もう大丈夫なの?」

けど、海斗さんは全く気にも留めず、私を抱きしめたまま尚も不安げな目を向けてきたので。これ以上心配させまいと、笑顔を作って徐に頷いた。

「泣いた理由、聞いてもいいかな?でも、答えたくないなら無理しなくていいから」

それから優しく語りかける海斗さんの言葉が、荒れた心にじんわりと溶け込んできて。

全てを話そうと決意した私は、これまでの経緯をゆっくり話し始めた。


ゆう君との関係、再会した時の状況、そして、文化祭での出来事。

一連の流れを伝え終えると、海斗さんは暫く口を閉ざしたまま澄み渡った青空に視線を向けた。

「所詮二人の間に入り込む隙なんてなかったんです。幼馴染である立ち位置に期待して、一人で舞い上がってて。私なんかよりもずっと、紺野さんの方がゆう君に寄り添っていたのに……」

構わず私は溢れる負の感情を外に吐き続けていると、再びあの時の記憶が蘇り、ようやく瞳が乾き始めてきたというのに、またもや涙腺が緩みだす。

「加代ちゃん、その台詞を言うのはまだ早いんじゃない?」

すると、暫く黙って耳を傾けていた海斗さんの冷静な一言に、私は一瞬目が点になる。

「だけど、ゆう君と紺野さんの仲を見せ付けられたっていうか……」

「でも、まだ本人の口から加代ちゃんのことは何も聞いてないんでしょ?」


……確かにそうだけど。

海斗さんの言う通り、決め付けるのはまだ早いのかもしれない。それは分かっているけど、何だか素っ気ない言い方に軽い戸惑いを覚えた。

「好きだからこそ尚更分かんなくなって、余計拗れてしまうから……」

そして、憂げな目で寂しげに微笑んだ海斗さんの言わんとすることがようやく理解出来、私はこれ以上反論することは止めた。

もしかしたら、海斗さんは自分と重ねているのかもしれない。

すれ違って、結局離れてしまった楓さんへの想いと共に。