「加代ちゃん?どうしたの?」

すると、なかなか反応を示さない私の顔を心配そうに覗き込んできた海斗さんの呼び掛けで、はたと我にかえる。

気付かない内に感傷に浸っていたなんて、油断しているとすぐこれだ。

私は余計な考えを振り払い、気持ちを切り替える為に、小さく首を横に振る。

「ごめんなさい、何でもないです。ちょっとぼんやりしてただけですから。それよりも、お腹空きませんか?そろそろお昼時ですし……」

それから笑顔で取り繕うと、私はその場から立ち上がり、石段を降りようとした時だった。


「待って」

突然腕を掴まれ咄嗟に振り返ると、そこには海斗さんの真剣な表情があり、真っ直ぐな眼差しをこちらに向けてくる。

「お願い、加代ちゃん。僕の前では正直でいてくれないかな?」

そして、懇願するような目でそう訴えてきた瞬間、私の中で何かが弾け出した。


「海斗さん……」

それからは、抑えていた感情が一気に解放され、気付けば海斗さんの首元にしがみ付いていた。

こんな大胆な行為をしてしまう自分に驚きだけど、兎に角そんなことはどうでも良くて。

今まで一滴も流さなかった涙が、まるで貯水槽が破裂したように溢れ出し、悲しさと悔しさと寂しさと共に零れ落ちる。

そんな私を、海斗さんは包み込むようにそっと抱きしめ、あやすように背中をゆっくりと摩ってくれて。

その優しが余計身に染みてきて、私は暫くその場で泣き崩れた。