それから、御墓参りを終えた私達は、一息つくため、本堂の縁側へと腰をかけた。
「はい、どうぞ」
私は用意してきた水筒をバックから取り出すと、キンキンに冷えたお茶を注いで、海斗さんの前に差し出す。
「ありがとう」
海斗さんはにこやかに水筒のコップを受け取ると、一気にそれを飲み干した。
そして、飲み終えたコップを手に持ったまま小さく息を吐いてから、遠くを見つめる。
時折吹く穏やかな風が、海斗さんの髪を靡かせ、何とも絵になる光景に思わず目がいってしまう。
「今年のお参りは、去年と比べたら少し気持ちが楽だったかな」
すると、突然憂げな表情でぽつりと呟いた海斗さん。
「時間の経過っていうのもあるかもしれないけど。一番は、加代ちゃんのお陰かもね」
そして、満足そうな表情で言われた最後の一言がよく理解出来ず、私はぽかんと口を開けた。
「私何もしてないですよ?」
全く心当たりがないことに首を傾げると、海斗さんは口元を緩ませ、私の頭にそっと手を置く。
「そんなことないよ。あの時加代ちゃんが言ってくれたこと、君が思っている以上に僕には響いたから」
それから、愛おしそうな目を向けて頭を優しく撫でられ、私は照れ臭さくなり、つい視線を逸らしてしまった。
海斗さんが自責の念に押しつぶされそうになった時、私はただ咄嗟に思ったことを勢いで言っただけなのに。
そして、あんなありきたりな言葉でも相手が今一番欲しいものなら、その人を癒すことが出来るということを知った。
……そう、あの時だってそうだ。
ゆう君は、紺野さんが一番欲しい言葉を分かっていて、それを捧げた。
ゆう君にとっても紺野さんは大切な存在だから……。