閑散とした路地を歩いて辿り着いたお寺。
周囲は青々とした樹々で囲まれ、境内はそれなりに広々としていた。
人気はなく、風情のある立派な本堂を通り抜けると、そこには沢山の墓石が立ち並んでいる。
海斗さんは墓地の入り口付近に置いてある木製の水桶を手に取り水を汲むと、唯香さんが眠る場所まで私を案内してくれた。
「ここだよ」
そう言うと、海斗さんは突き当たりにある、“櫻井家”と書かれた、こじんまりとしている墓石の前で立ち止まる。
まだ亡くなって二年しか経っていないため、墓石は黒光りしていてとても綺麗だった。
ただ、お線香の燃えかす以外は、何も飾られてなく、他と比べると何とも殺風景で少し寂しさを感じてしまう。
「両親は共に海外勤務だし、僕も学校と仕事の両立で、なかなかお参りに行けないんだよね」
そんな私の考えを読み取った海斗さんは、影かかった表情で小さく笑い、そう答えてくれた。
それから、私達は唯香さんの墓石を丁寧に掃除して、用意したお花とお線香を飾り、共に手を合わせる。
暫しの間静寂が流れる中、私は唯香さんに想いを全て伝えた後、目を開けて隣に視線を向けると、海斗さんは未だ黙祷を捧げている。
おそらく、なかなかここへ来れない分、唯香さんに話したい事が山程あるのだろう。
海斗さんは忙しい人だから、日頃から想っている事をゆっくりと伝えられるのは、この時くらいしかないのかもしれない。
だから、私は邪魔にならないよう、そっと身を引いて、祈り続ける海斗さんの背中を暫く見守っていた。