「失礼しました」

昼休みが終わる頃、日直当番である私は、先生から次の授業に使うプリントを受け取り、職員室を後にした。

ここ数日間恵梨香はテニスの大会で不在のため、暫く静かな日が続いている。

けど、文化祭を期にクラスの女子と大分打ち解けてきたので、以前のような寂しさはない。

それに、コンタクトに変えて以降、周囲の態度が少し変わってきたような気がする。

特に男子は前と比べて優しく接してくれるようになり、更にクラスでの居心地が良くなった。

なので、もう一人で孤立することはないし、それなりに充実してはいるけど……。


やっぱり、誰よりも今一番側にいて欲しいのは、恵梨香だった。

ゆう君と紺野さんの強い絆を見せ付けられてから、私はこのままゆう君を好きでい続けていいのか疑問に思い始めてきた。

それに、紺野さんが起きる直前、ゆう君が言いかけていたこと。

“分かった”というのは、一体どういう意味なのか。

もしかして、彼女に対する気持ちなのか。

あの時、ゆう君は紺野さんを守ると言っていた。

それだけで、答えは出ているような気がする。

そうなると、もう私が入り込める隙なんて何処にもないのでは……。


気付けば、どんどん思考が負の渦に飲まれていき、私はそこから脱却する為に強く首を横に振る。

こういう時、いつもの恵梨香の強い喝があれば、少しは軌道修正出来そうなのに。

改めて彼女の存在の大きさを思い知ると、更に寂しさが襲ってきて、深い溜息が自然と漏れ出る。