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それから、教室まで辿り着くのに、一体どれくらいの注目を浴びただろうか。

すれ違う度に、色んな人に振り向かれては、ひそひそ話が聞こえてくる。

その大半は、海斗さんと俊君に向けられたものだけど、中には私に対して熱い視線を感じているような。

おそらく気のせいだということにして。
先程から全く落ち着かない私とは裏腹に、平然とした様子で私の前を歩く海斗さんと俊君。

きっと二人にとって、こんなことは屁でもないのだろうと改めて感心していると、ちょうど恵梨香のクラスの前を通りかかり、そこで足を止めた。

確か、この時間帯は店番だったような気がして、私は海斗さん達を呼び止め、二人を誘ってチャイナカフェへと足を運んだ。

中に入ると、そこは一面赤色で統一された壁に、白のテーブルクロスが掛けられた四角型のテーブルが等間隔に設置されている。

他にも教室の隅にパンダのぬいぐるみが置かれていたり、竜の絵や紙で出来た蓮などが飾られていたりと。

本格的に中国のイメージを再現していて、その力の入れ具合に圧倒されてしまう。

すると、教室の一角で男性客が群がっているのが目に留まり、それが何なのか私はすぐに察知した。


「恵梨香、遊びに来たよー!」

その人集りに向かって思いっきり叫ぶと、数秒経ってから群がる人を掻き分けて、中から若干やつれた表情をした恵梨香が顔を出してきた。

「加代!来てくれて、あり……」

それから笑顔でこちらに駆け寄ろうとした直後、恵梨香の表情が固まり、動きもピタリと止まる。

「……え?加代?……それに、カイっ……!?」

そこで不味いと思ったのか。

恵梨香は咄嗟に手で自分の口を塞ぐと、激しく動揺しながら私と海斗さんを交互に見た。


「ど、どいういこと?本当に加代だよね?」

未だ信じられないと言わんばかりに大きな目を更に広げ、恵梨香は声を震わせながら恐る恐る私に近付いてくる。

「うん。海斗さんとの約束果たしてきたの。あとコントタクトにしてみたんだけど、どうかな?」

そんなにまじまじ見られると、とても恥ずかしくなるけど、恵梨香のその反応が何だか少し可笑しくて、私ははにかむよう笑った。