「そっか。やっぱり眼鏡ない方がいいな。足はもう平気なのか?」

そんな私を満足気な表情で眺めた後に見せた、俊君の沈んだ顔。
私の怪我に負い目を感じている俊君は、あれからずっと、足のことを気に掛けてくれる。

「全然平気だよ。結局ただの打撲だったし、もう痛みも何もないから大丈夫!」

あの後病院で診て貰った結果、骨に異常なしと診断されたので、私は少しでも安心してもらおうと笑顔で首を縦に振った。


「ところで加代ちゃん。例の挨拶、俊にも言ってやってあげなよ」

すると、その隣でわざと聞こえるように耳打ちしてきた海斗さんの提案に、私は顔の温度が一気に上昇し始める。

「なんだよそれ?」

私達のやり取りに一人ついて行けてない俊君は、怪訝な表情で尋ねてくると、私は言おうか言わまいかその場でたじろいでしまう。

けど、これからのことを考えると少しでも慣れておいた方がいい気がして。心を決めると、改めて俊君の方に向き直した。

「お、おかえりなさいませ。ご主人様」

そして、震える声で躊躇いがちに俊君を見上げた途端。

俊君は目を大きく見開いたまま、再び石像のように固まってしまった。

「……なっ、か、海斗っ!てめえ、加代に何言わせてんだよっ!?」

それから数秒経ってようやく動き出すと、かなり焦った様子で海斗さんを怒鳴りつける。

「だって、これがメイド喫茶の挨拶だって言うから、練習がてらに」

そんな赤面する俊君とは裏腹に、海斗さんは涼しい顔で笑うと、私の肩にそっと手を置いてきた。

「けど、本当に加代ちゃんのそれは破壊力あり過ぎるから、あんまり乱発しないように気を付けてね」

そして、何故か真剣な目でそう忠告されてしまい、私は一体何の話なのか意味がよく理解出来ないまま、一先ず素直に頷いたのだった。