__それから三十分後。
全ての支度を終えて海斗さんが教室の扉を開けると、入り口脇には俊君が顰めっ面であぐらをかきながら座っていた。
「ったく、おっせーよ。どんだけ待たせんだっ!」
それから痺れを切らした俊君は、歯を剥き出しにして海斗さんに食ってかかる。
「これが普通だよ。むしろ早いくらいだと思うけど」
しかし、海斗さんは動じることなく俊君の抗議をさらりと交わすと、後ろで控えていた私に視線を向けた。
「ほら加代ちゃん。恥ずかしがらないで早く俊にも見せてあげなよ」
暫く遠くの方で二人のやり取りを眺めていると、なかなか表に出て来ない私を催促するように、海斗さんは手招きをしてくる。
確かに、ここでずっと足踏みしても仕方ないので、私は小さく深呼吸をしてから意を決して教室の外に出た。
すると、私の姿を見た途端、まるで電池の切れたオモチャのようにピタリと動きが止まり、こちらを凝視してくる俊君。
「あ、あの……」
待てど暮らせど一向に反応がないことに私は段々と不安が募り、恐る恐る彼を見上げた時だった。
「……やばいな」
ぽろりと溢れた俊君の言葉に衝撃を受け、私は目を大きく見開く。
「や、やばいって……そんなに変!?似合わない!?」
ここでは全身鏡がない為、自分の姿を確認する事は出来ないけど、海斗さんの手に掛ればきっと大丈夫と挑んだ手前。
一気に押し寄せてきた負の感情に、私は涙目で訴える。
「バカ、違えよっ!そうじゃなくて……」
血相を変えて全力で否定はしてくれたものの、何故かそこから押し黙ってしまい、益々不安が募り始める。
そんな俊君を見て、口元に手をあてながら声を殺して笑う海斗さん。
一体二人のこの反応は何なのか。
私は全く意味が理解出来ずにその場で狼狽えていると、不意に俊君は私から顔を逸らし、視線を明後日の方向に向けた。
「だから、似合い過ぎてヤバいんだよ」
そして、顔を真っ赤にしながら、ようやく口を開いてくれた言葉がこれまた衝撃的過ぎて。
私は何かの聞き間違いではと、一瞬自分の耳を疑ってしまった。