「加代ちゃん、来たよー」

今度は馴染みのある声が遠くから聞こえてきて、背後を振り返ると、向かいから黒のハンチング帽を被った眼鏡姿の海斗さんが満面の笑みでこちらに手を振ってくる。

「初めて来たけど、おまえの学校も結構盛大にやるんだな」

その隣には、黒シャツに紺のジーンズ姿の俊君が、ポケットに手を突っ込みながら物珍しそうに辺りを見渡していた。


流石、二人肩を並べると何とも圧巻の光景。

そこら辺の男性達が霞んでしまうぐらいのオーラを放ち、二人の格好良さが一際輝いていて、毎日見ているのに、つい見惚れてしまう。


「海斗さん、俊君、忙しいのに来てくれてありがとうございます。というか、海斗さんはそんな簡単な変装で大丈夫なんですか?」

一先ず私は笑顔で二人の元に駆け寄ると、堂々と顔を晒している海斗さんに不安を覚え、私は慌てて周囲を見渡す。

以前、海斗さんがここへ来た時はえらい騒ぎになったというのに、何故こんなにも余裕でいるのかが不思議で、小声でぽつりと警告した。

「多分平気じゃない?こんだけ人がいれば案外気付かれないもんだよね」

しかし、当の本人はまるで他人事のようにあっけらかんとしていて。

益々不安に駆られる中、突然肩を掴まれてしまい、反射的に体が小さく跳ね上がる。

「ところで、加代ちゃん。早速だけど、いいかな?」

そう言うと、海斗さんは目の色を変えて、手に持っている大きなトートバックを意味深に見せつけた。

「は、はい。でも、私まだ呼び込みの仕事が……」

その意図は重々汲み取っていたが、抜けたくても抜けられない状況に戸惑っていると、不意に俊君は私の右腕を掴み、女子達の元へと歩き出す。

「悪いけど、こいつ借りるぞ」

そして、先程から他校の男子生徒そっちのけで呆然と立ち尽くしている女子二人に、はっきりとそう告げる。

「ごめんね、すぐ返すから」

続けて、空いてる私の左腕をしっかりと掴んできた海斗さんは、いつもの甘いマスクでやんわりと微笑んだ。


「は、はい!どうぞお構いなくっ!!」

こうして彼等の魅力を一身に受けた二人は完全に骨抜き状態となり、力一杯頷くと、私はそのまま海斗さんと俊君に引き摺られながら、とある場所へと連行されていったのだった。