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事が穏便に済み、引き上げる頃にはかなり時間が過ぎていて、伯母さんから着信が入った。

なかなか帰ってこないことを凄く心配されてしまい、申し訳ない気持ちで一杯になった私達は、暗い夜道を歩いて帰る。


しかし、歩いているのは俊君一人だけで、私は俊君の背に身を預け、首元にしがみついたまま先程から心臓が鳴り止まない。


「……ね、ねえ、重くないの?私、一人で歩けるから大丈夫だよ?」


家まであと僅かの距離なので、お言葉に甘えてしまったけど。

負ぶさっている状態と、自分の全体重が知られてしまった恥ずかしさに、私は震える声で恐る恐る尋ねる。

「バカ、その足で歩けるかよ」

そんな私を呆れた顔で一瞥すると、俊君は小さく溜息を吐いてから視線を前に戻した。

確かに、自転車が倒れた右足首は青く腫れ上がり、今でもじんじんする。

恐らく骨折まではしていないと思うけど、明日は病院に行った方がいいかもしれない。

それに、眼鏡も壊れてしまったから、新しく買い替えなくてはいけないし。


「……悪かったな。俺、昔から感情的になると自分でも抑えられないんだよ。だから、お前に余計な怪我させて……」

すると、思い詰めたように俯くと、重々しく語り始める俊君。


確かに、あの時は大人しくするべきだったと思う。

あのまま俊君が殴り続けていたら、きっと今頃は大変なことになっていたかもしれない。


……だけど。


「俊君は私のために、あんなに怒ってくれたんだよね?」

自分で言ってて凄く恥ずかしいけど、あの時柄の悪い男達に怒鳴っていた事が、今思えば素直に嬉しい。

「……そりゃあ女に手を出すなんて、許されることじゃないだろ」

照れているのか。
俊君はそっぽを向くと、ぶっきらぼうそう答えた。

そんな反応が可笑しくて、私はくすくすと小さく肩を震わせる。