すると、突然何かを殴るような鈍い音が響き、同時に恰幅のいいスキンヘッドの男性が地面に転がる。

何事かと顔を勢い良く上げると、拳を握りしめながら、俊君が倒れた男性の前で仁王立ちしていた。

「てめえ、よくも加代を傷付けたな。絶対許さねえ!」

そして、血走った目で相手を睨みつけ、思いっきり怒鳴り散らす。

「餓鬼のくせに、調子に乗ってんじゃねえよ!」

反撃されたことに逆上した長身の男性は、俊君の顔面めがけて殴りかかってきたけど、それを見事に掌で受け止めると、長身の男性の顎にストレートパンチをお見舞いした。


……つ、強い。

私は圧倒されて、開いた口が塞がらない。

拳一つで大の大人を二人も倒すなんて。

まさか俊君がここまで強いとは全然知らなかった。


「やばい、あいつマジギレしてる。こんな時期にあの時の二の舞とか、マジで勘弁しろよ!」

一人唖然としている最中。

青ざめた表情でその様子を見ていたサッカー部の人達は、慌てて止めに入ろうとその場を駆け出す。

「ま、待ってくださいっ!“あの時の二の舞”って!?」

緊急事態なのはよく分かっているけど、気になるフレーズが耳に残り、気付けば手が勝手に伸び、男性の服の裾を掴んでいた。

「あいつ二年前にも不良グループに絡まれて、一人でそいつらボコボコにして謹慎処分くらったことあんだよ」

それから、想像を超える話が返って来て、私は一瞬言葉を失う。


言われてみれば。
俊君が練習試合でうちの学校に来た時、男子生徒達がやけに怯えていたのはそういう事実があったからなのか。

確かに粗暴なところはあるけど、普段からサッカーに夢中で、しかもエースに抜擢されて。

全てが順風満帆なんだと思っていたのに、そんな過去があったとは。

「今は大事な時期だって、あいつが一番よく分かっているはずなのに、一度スイッチが入ると周りが何も見えなくなるんだよ」

暫く返す言葉がなく、その場で立ち尽くしていると、サッカー部の青年は顰めっ面で悪態をつき、私には構わず再び走り出して暴走する俊君を全力で抑えつける。