「おい。さっきから大人しく聞いてれば何つけあがってんだ?」

突如すぐ近くで聞こえたドスの効いた声。

けど、それは思わぬ方向から発せられた為、私は一瞬自分の耳を疑った。

声のした方を振り返ると、そこには鋭い眼光を放ちながら、射抜くような目で男性達を睨みつけている俊君の姿。

「誰が金なんか出すかよ。俺らみたいな学生にせがむなんて、あんたら恥ずかしくないのか?」

大の大人に臆する事なく、私達を庇うように堂々とした立ち振る舞いに、一瞬見惚れてしまったけど、益々状況が悪化してしまいそうで、冷や汗が流れ始めていく。

「なんだてめえ。女の前だからって格好つけてんの?マジウケるわ。青春かよ」

すると、その挑発に乗ったスキンヘッド姿の男性は、突然俊君の胸倉を掴み上げた。

「おい、俊!なに煽ってんだよ!すみません、こいつバカだから大目に見てやってください。ほら、お前も謝れよ!」

そんな中、一触即発なムードに、傍にいたサッカー部員達が慌てて止めに入る。

「ふざけんな!誰がこいつらに頭下げるか!」

しかし、そのフォローを跳ね除けて、俊君は男達に更に食ってかかってきた。

「あー、さっきからムカつく餓鬼だな」

怒りが頂点に達したスキンヘッドの男性は、胸倉を掴んでいた拳に力を込め、俊君を持ち上げて拳を振り下ろす。


「やめて下さいっ!」

そして、殴られそうになる直前。居ても立っても居られなくなった私は、身を乗り出し、全身でスキンヘッドの男性の動きを抑えた。


「っんだよ!邪魔すんなっ!」

思わぬ妨害が入り、スキンヘッドの男性は思いっきり腕を振り上げると、私はその弾みで地面へと倒れ込み、掛けていた眼鏡が宙を舞う。

しかも、運悪く倒れた場所が駐輪場だった為、停めてあった自転車に思いっきり体をぶつけてしまい、その衝撃で車体が私の足に倒れてきた。


「……っ!」

あまりの激痛に声なき声を上げ、体が強張る。

「大丈夫か!?」

それから、私のすぐ隣にいたサッカー部の青年がすかさず駆け寄り、倒れた自転車をどかしてくれた。

だけど、右足首に突き刺すような痛みが走り、膝は擦り剥けて血が流れていて、私はその場でうずくまり、暫く動く事が出来ない。