「それじゃあ部屋に戻るよ。こんな遅くまで付き合わせて、ごめんね」

それから、ベットに転がっているアルバムを手に持ち、その場を離れようとする海斗さんを私は咄嗟に引き止めた。

「あの、海斗さん。えと……ひとつだけ、聞いてもいいですか?」

そして、恐る恐る尋ねると、海斗さんはきょとんとした目で私を見返す。

「海斗さんは楓さんのこと、今はどう思ってるんですか?」 

こんなことを聞くのは野暮だと分かっている。

けど、お互い想い合って別れてしまった人の心境がどうしても気になり、つい行動に出てしまった。

「楓は今でも大切な人だよ。だけど、僕では彼女を壊してしまうから、幸せを願うことしか出来ないかな」

しかし、海斗さんは特に気に留める様子もなく、すんなり返答してくれると、自嘲気味に笑って見せる。


「加代ちゃんは好きな人がいるんでしょ?」

「な、なんで分かるんですか?」

すると、突如図星を突かれてしまい、油断した私はあっさり認めてしまった。

「女の子が綺麗になりたいって願うのは、大体恋愛絡みが多いから」

そんな焦る私を面白おかしく眺めながら、さらりとそう答えると、海斗さんは不意に手を伸ばし、私の頭を優しく撫でてきた。

「加代ちゃんには幸せな恋愛をして欲しいんだ。だから、引き続き何かあれば力になるからね」

そして、やんわりと微笑む表情は、いつにも増して暖かみを帯びているような気がして。

心に染み渡る海斗さんの愛情がとても心地良く、このまま本当に私のお兄ちゃんになってくれればいいのにと。

唯香さんには申し訳ないけど、密かにそう願ってしまったのだった。