「ああ、もうダメ」

先が見えない状況に、私は大きな溜息を吐くと、諦めるか、それとも一から教科書を読み直そうか頭を悩ませていた時だった。

ドアの向こう側で聞こえた足音と、部屋の扉が開く音。

それに反応した私は、椅子から勢いよく立ち上がり、引き出しにしまってあった白いハンカチを取り出すと、急いで部屋を飛び出した。

それから、斜向かいにある部屋の前で立ち止まり、数回ノックすると、奥から海斗さんの返事が聞こえ、私は恐る恐る扉を開ける。

「加代ちゃん?まだ起きてたの?」

意外だと思われたのか。

着ていたベストをハンガーにかけようとしていた海斗さんは、私の姿を見るやいなや、目を丸くした。

確かに、夜があまり得意ではない私は、誰よりも早く寝床に着いている自信はある。

だから、この時間に海斗さんの部屋を訪ねるのは、もしかしたら、これが初めてかもしれない。