「ゆう君」

そんなことを密かに願いながら、懐かしさと愛情を込めて、ぽつりと呟いた十年ぶりの呼び名。

「私ね、ゆう君が引っ越しちゃって本当に悲しかった。今でもあの日の事はよく覚えてる。それくらい私にとって、ゆう君は側に居るのが当たり前の存在だったから……」

何故だろう。

その名を口にした瞬間、不思議と心の奥底にしまい込んでいた想いが、何の躊躇いもなく外に溢れ出てくる。

「だから、ゆう君と高校で再会した時は本当に嬉しかった。……でも、ごめんね。凄く嬉しかったのに……変に臆病になってて、すぐに会いに行けなくて」

それから、正直な気持ちを全て口に出し終えた私は、徐々に早くなる鼓動を落ち着かせるため、小さく深呼吸をした。

「本当はずっと伝えたかった。高校入学して、初めて目にした瞬間から、ずっと……」

そして、やんわりと微笑みながら、愛しい幼馴染へと告げる。


「ゆう君、おかえりなさい」


十年分の想いを込めて。


「ただいま、加代」

そんな私の言葉を、ゆう君はとても穏やかな表情で、温かく受け止めてくれたのだった。