「まあ、加代がそう言うならいいけど。でも、気を付けろよ。仮にも男と女なんだから」

しかし、眉間にシワを寄せながら不服そうな表情で警告されてしまい、私は一瞬なんのことか理解出来ず、きょとんとした目で彼を見返す。

「いやいや、それは絶対あり得ないでしょ。私なんか女として見られてないから」

それから、遅れながらようやく意味を飲み込んだ私は、岡田君の見当違いな話に思わず笑いが溢れた。

「そう思ってるのは、お前だけかもしれないだろ」

すると、聞こえるか聞こえないかの声で呟いた岡田君の意味深な一言が耳に届いた途端、表情がぴきりと固まる。

「えと……。岡田君それって、どういう……」

別に深い意味なんてないのは分かっている。

けど、つい期待してしまう卑しい自分の心を抑えきれず、私はおそるおそるその真意を確かめようと口を開いた時だった。

「あのさ、“岡田君”って呼び方やめてくんない?他所他所しくて寂しいだろ」

まるでそれを遮るように、厳しい口調で痛いところを突かれてしまい、私はそこで言葉に詰まる。

確かに、彼の言うことはごもっともだ。

前に指摘された時も心が痛かったけど、それでも呼び方を直すことが出来なかったのは、彼との距離を感じてしまっているから。


……いや、違う。

むしろ、私の方から遠ざかっていたんだ。

こうして岡田君は何も変わっていないのに、人気者な彼の隣に立つことが怖くて、劣等感に溢れて。

自分の勝手な都合で、自ら境界線を貼ってしまった。

人の目を気にする事なんて、私達の間には何一つないはずなのに。