「それじゃあ、楓さん。今日は本当にありがとうございました」
「あたしの方こそ。こんな時間まで付き合わせちゃってごめんね。また事務所に来ることがあったら、会えるといいね」
楓さんとは帰り道が反対方向なので、ここで別れを告げた私達は、名残惜しくこの場を離れようとした途端。
何か思い出したように突然楓さんに呼び止められ
、私はきょとんとした目で彼女の方を振り返る。
「そういえば言い忘れてたけど。あなたが代役になってくれたこと、あたしはちっとも嫌じゃなかったからね」
すると、思いもよらないタイミングで代役の話に触れられ、直ぐに言葉が出てこない。
「海斗から色々聞いちゃった。だから、あたしは加代ちゃんを応援してる。あなたの気持ちよく分かるから、お互い頑張ろうね!」
そう告げると、楓さんは小さくガッツポーズをしてから私と恵梨香に魅力的なウィンクを飛ばし、颯爽とこの場から歩き出して行った。
愛の深さについて色々教えてくれた楓さん。
それによって、更に背中を押されたようで。
また一人心強い味方が増えた気がして、私は満ち足りた気持ちになりながら、暫くそのまま彼女の背中を見続けたのだった。