楓さんの気持ちは痛い程分かる。

好きな人と一緒にいられる為なら、手段は選ばないし、ましてや、可能性が少しでもあるなら、そこに全てを注ぐ。

それを“あざとい”というなら、そんなの恋をすれば誰だってそうなるのは当たり前だし、悪い事だなんて全く思わない。


「最初は海斗が彼氏っていうだけで十分だった。ずっと想いを寄せてた人と両思いになれただけで最高だったのに。……けど、そんな綺麗事いつまでも通用するわけないのよね」

そう言うと、楓さんは一息入れる為に小さく深呼吸をした。

「海斗は忙しい人だし、あたしも仕事が増えてきたから、なかなか会えなくて、すれ違いばかりで。始めから分かってたことだったのにそれが段々辛くなって、我儘になって、海斗を繋ぎとめたくなって。もう、壊れちゃった」

そして、最後の一言がまるで大きな鉛のように、ずしんと心に重くのしかかってくる。

「だから別れたの。自分の存在が私を苦しめるだけだから、もう終わりにしようって。最後まで私のこと大事に考えてくれてた」

そこまで話すと、楓さんは深く溜息を吐いてから、再び窓の外に目を向けた。

「本当今考えてもバカみたい。彼を支えたかったのに、結局また傷付けてしまうなんて。ほとほと人の欲って呆れるわよね」

そして、ふと苦笑いを見せるその表情が何とも切なくて、私は段々と瞳が揺れ始める。