__それから一時間後。
撮影を全て終了した海斗さんは、再び綾さんのいる事務所に私達を連れていってくれた。
その道中、あれ以降ずっと口を開かない恵梨香の様子が気が気でない私は、何度も彼女の顔色を伺う。
「……大丈夫?」
相変わらず放心状態のまま呆然とする姿に、堪らず小声でぽつりと耳打ちすると、恵梨香は口元を小さく緩ませてゆっくりと頷いた。
「うん、平気。だって元カノだもん。今は違うんだから……」
しかし、言葉とは裏腹に覇気が全くなく、未だ焦点が定まっていない様子を見ていると益々不安が募っていく。
確かに不可抗力とはいえ、好きな人が目の前で違う女の人とキスだなんて。これがもし岡田君だったらと思うと胸が張り裂けそうになる。
恵梨香の気持ちが痛い程伝わってくるため、私はなんて言葉を掛ければいいのか思考を巡らしていると、気付けば事務所の扉の前まで辿り着いていた。